介護

ネイルで笑顔の花が咲く!福祉ネイルが利用者さんに届ける“喜び・癒し”の種

女性の手元を華やかに彩るネイル。爪にマニキュアを塗らなくても生活に支障がないことや、メンテナンスが大変そうなイメージから、ネイルは一部の人のぜいたく品だと考える方が多いかもしれません。しかし、“自分のためにネイルをする”ことで多くの利用者さんが喜びや癒しを感じ、認知症ケアで注目されているユマニチュード との親和性も高く、さらには、ネイルをすることで認知症の女性の問題行為軽減に期待できるのではと、大学での研究も進められています。

今回は、ネイリストとして「福祉ネイル」の素晴らしさを実感し世に広める活動をしている、日本保健福祉ネイリスト協会(以下、JHWN)理事長の荒木ゆかりさんに話をお聞きしました。

福祉×ネイル?! その始まりは「女性利用者の旦那さまのステキな思いやり」

勇壮な“だんじり祭り”で知られる大阪府岸和田市。この地でネイルサロンを経営する荒木さんが福祉ネイルに興味を持ったのは、近所の小規模デイサービスからの「脳梗塞で身体に麻痺が残る70代女性の杖に、デコレーションをしてもらえませんか?」という、ひとつの問い合わせがきっかけでした。

「電話をもらった2012年当時、福祉のお仕事にさほど興味はありませんでした。ただ、施設の方より、旦那さまの『これ以上、妻の状態が悪くならないで欲しい』という想いから、外出が楽しくなるよう杖をデコレーションしたいというアイデアを相談されたという話を聞いて嬉しくなり、依頼を引き受けることにしたんです」。

その後、杖の納品のために施設訪問することになった荒木さんは、持ち主である女性に「マニキュアがあるので、ネイルをしてみませんか?」と提案します。はじめは麻痺が恥ずかしいからと手を隠してしまわれたものの、職員の方が「塗ったら気分変わるよ~!」と明るく勧めてくれたので、しぶしぶ薄ベージュ色のネイルをすることに。すると、爪を見て「ええもんやね」とつぶやかれ、ニッコリと笑顔になったのでした。

クチコミでどんどん広がり続ける福祉ネイルの輪

JHWN本部であり、荒木さんがオーナーを務める「ネイルサロンP&B」

翌月、施設から荒木さんの元へ「ご本人はもちろん旦那さまがネイルを気に入られているので、費用を出すので今後も訪問ネイルをしてもらいたい」という連絡が入ります。定期的に通い始めると、はじめはベージュしか選ばなかった女性がピンク色を選ぶようになり、お花のネイルアートを入れるようになり、とうとう好きな猫のキャラクターのリクエストをするといった変化がありました(不思議なことに、この傾向はほぼ全員の女性に見られ、同じ色をずっと塗り続ける人は殆どいないのだとか)。同時に、周りの女性から「私にもしてほしい!」と、施設内で福祉ネイルの輪が徐々に広がっていくことに。次第に荒木さんの活動がクチコミで話題となり、大きな施設や病院などからの依頼が増えていきます。

この活動を広めて福祉ネイリストの数を増やしたい!と強く感じた荒木さんは、2015年に一般社団法人シニアチャレンジッドメンタルビューティー協会を設立。福祉ネイルの普及活動やネイリスト育成に力を注ぎ、3年後にはJHWN日本保健福祉ネイリスト協会へと名称変更。北海道から九州まで約30もの認定校が誕生し、全国の各施設・病院などへと福祉ネイリストを送り出しています(2018年12月現在)。今では、現役の介護職員や看護師が習いに来ることも増えているのだとか。

男性利用者や男性介護職員からのニーズも増加中

福祉ネイルは女性たちだけのものではありません。男性利用者から、ハンドマッサージや爪を整えるネイルケアを頼まれることや、「孫に見せたいから」とパンダのネイルアートをオーダーする方も!

また、男性介護職員から福祉ネイルを習いたいという問い合わせも増えています。荒木さんが理由を尋ねると、「自分たちは普段から顔を合わせているからかもしれないけれど、利用者さんは僕らには出さない笑顔をレクリエーションの方に見せています。そこで、ネイルなら僕にも挑戦出来そうだし、あの笑顔が引き出せないかなと思って」と話されたのだそう。

自治体や特別養護老人ホームからアドバイスを求められることに

荒木さんが福祉ネイルを始めた当初、施設へ訪問すると“介護の現場にネイルは要らない”と否定的な意見をもらうこともあったのだそう。職員はネイル不可と規定がある施設が多いことや、ネイルをぜいたく品だと感じている男性から「うちの妻にネイルなんて教えないで欲しい」と断られた経験も。

「ですが、ここ1年ほどで、お役所の方や施設オーナーさん、若い介護職員さんの福祉ネイルに関する考え方が変わってきたように感じているんです」と話す荒木さん。というのも、高齢者支援センターの会報誌で取り上げられたり、自治体や特別養護老人ホームの施設長からアドバイスを求められたりと、全国の福祉ネイルを取り入れたい施設からどんどん問い合わせが入るのだそう。

「実は今、吉備国際大学の佐藤三矢准教授と共に、長谷川スケールを使った『認知症の行動・心理症状(BPSD)に対するマニキュア療法の有効性の検証』を進めていて、文部科学省の研究費も助成されるようになりました。また、認知症の方がターコイズブルーという色の名前を“ターコ”と覚えていたり、お召し物の色にあわせてネイルの色を選んだりするなどの報告があり、協力してくださっている介護職員さんも利用者さんの変化に驚いています。今後、福祉ネイルの良さがエビデンス(証拠や根拠)ベースで説明できるようになれば、もっと広がりを見せられるのではと感じています」。

認知症ケアで注目される「ユマニチュード」との親和性

活動を続ける中、荒木さんは「福祉ネイルは“ユマニチュード”なんだよ」と、ある方に教えられます。ユマニチュードとは、フランス発祥の認知症のケア技術。“見る、話す、触れる、立つ”という4つの動作を基本とし、「あなたは大切な存在ですよ」と伝えながらケアすることで、安心して受け入れてもらえるようになるとされています。この手法をネイルに置き換えると、

  • 見る:見つめ合ってネイルをする
  • 話す:前向きな会話をする
  • 触れる:指先や腕に触れる
  • 立つ:ブースまで歩いて来てもらう

つまり、福祉ネイリストは「ただマニキュアを塗っている」のではなく、ネイルを通じてユマニチュードを実践していることになるのです。

また、好きな色に塗られた爪を見ると起こる「ステキ!嬉しい!」という感情。これは女性に特に多く見られる情動で、体が追いつかないほどの心の動きです。爪を見るたびに嬉しいという情動が繰り返されたからなのか、認知症の方がネイル後に突然話し出すこともあるのだそう。ユマニチュードを含め、ネイルには利用者さんの気持ちを常に動かす良い効果があるのではないかと、荒木さんは感じています。

介護職員が利用者さんへネイルをするときに知っておきたいこと

介護職員や看護師が利用者さんにネイルをして大丈夫かとたずねたところ、「ネイルは“医療行為ではない”ので、福祉ネイルの勉強をしていなくても問題ありません」とのこと。

「なるべく爪切りやニッパーではなく“やすり”で整え、色素沈着防止や薬で弱った爪を補強するためベースコートを塗るのがおすすめです。また、多くの現場で『パルスオキシメーター※1を使用するため指を一本だけ空けていて欲しい』と頼まれることから、訪問看護師さんに相談してネイル(ジェルネイル含む)をした指としていない指で塗った当日に検証してもらったところ、数値に差はないことが確認できました。なので、全ての爪にネイルをしても大丈夫ですよ※2」と話す荒木さん。

※1 皮膚を通して動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測定するための装置
※2 荒木さん調べ。

JHWNを卒業した福祉ネイリストは、高齢者に多い爪の病気について正しい知識をもち、保険に加入しているので万一のときにも安心です。また、利用者さんが疲れないために20分で終えるよう心がけるなど、安全にネイルを楽しんでもらえる技術を日々磨いています。

福祉ネイリストに出張してもらうにはどうすればいい?

施設に福祉ネイリストの出張を希望される方は、JHWNの公式Webサイトに掲載された最寄りのネイルスクールへ直接お問い合わせください。施設側で準備するものは、机と椅子のみ。費用は、JHWNを卒業した福祉ネイリストのメニューはマニキュア(お色10本+アート1本/カット付き)1,000円~、ハンドトリートメント500円~が目安となっています。お支払いに関して、施設がまとめて払うことも個人が払うこともどちらでも対応できますので、各スクールの担当者とご相談ください。

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